プライドか復讐か/「シューメーカーの足音」
モームの「月と六ペンス」が、芸術の世界に生きる者と現実世界に生きる者の対比であるように、この本における斎藤さんと智哉くんも、芸術と現実の対比であるのかなあと思った。
どちらが幸せとかそういう話ではなく、ただ靴に対する思い入れが違うのかなあと。
そういうのってあるよね。
作者が描写する靴がなまめかしくて、好きです。
私は裸足族なので、恐らく一生理解することのない感覚なのでしょうけれど。
話全体としては面白かったけど、帯やあらすじから受ける印象とは
違う方向へストーリーが展開していった感じです。
あらすじをば。
主人公は、靴職人の斎藤さんと智哉くんという二人の日本男児です。
斎藤さんはお店を大きくするために、イギリスのなんか偉い人たちに取り入って、一所懸命異国の地でがんばるわけです。
お手製の靴を工業ラインに乗せる為に工場を作るのだが、その工場を作る為にせっかく買ったアッパークラスの象徴たる車も売ってしまう。
涙ぐましい。
そもそも一心不乱に靴の木型を削って自分の血だらけにしてしまうあたり、
靴に対する思い入れがもんのすごいわけです。
野心と技術でここまでのし上がってきた、一見いけ好かない奴だけれど一所懸命な男なわけです。
対する智哉くんは、日本で靴職人として頑張っているわけだけれども、
斎藤さんほどがむしゃらに、血みどろになってやっているわけではありません。
お友達の英国人、ショーンと小粋なジョークなど飛ばしつつ、なんかこう、楽しそうなわけ。あんたなんかのんきすぎじゃない?という。そのせいか人格の描写も、斎藤さんに比べて薄味な感じです。ふわふわしよる。
でもふわふわな智哉くんは、復讐の為に斎藤さんのことを狙っていたのです。
外堀からじわじわと斎藤さんを追いつめていき、しかし斎藤さんも黙ってやられるようなタマではなく、二人の靴職人の過去の因縁がぶつかりあったりなどするわけです。
ちょっと智哉くんの策が上手く行きすぎていて、おやおや?など思ったりもしますし
どんでん返しってなんだろう。ミステリーとは。的な疑問もあります。
けれどなんとなく、ああ私は斎藤さんの方が好きであるな、と思わせるラストシーンでした。(そして多分これは、作者の人も同じなのでは?と思う)
読んでいると靴に詳しくなれるかも。