私には本がある

仕事が上手くいかなくても、人間関係に行き詰っても、私には本がある

感想「amazon 世界最先端、最高の戦略がわかるー成毛眞」/ amazonはヤンデレだ

アマゾンってヤンデレに似ているな、というのが一番の感想。

 

ヤンデレとは。

ヤンデレ - Wikipedia

キャラクターの形容語の1つ。「病んでる」と「デレ」の合成語であり、広義には、精神的に病んだ状態にありつつ他のキャラクターに愛情を表現する様子を指す。その一方、狭義では好意を持ったキャラクター(「デレ」)が、その好意が強すぎるあまり、精神的に病んだ状態になることを指す。

 

私が思い出すのは未来日記由乃*1とか、FGO清姫*2とか。ヤンデレとまではいかずとも、一途以上の熱量を持っているジョジョ4部の由花子さんあたりも思い浮かぶ。

彼女たちは皆眉目秀麗であり、優秀な頭脳と卓越した家事能力、さらには戦闘能力を持っている。そしてその全ての力を惜しげもなく主人公の為に捧げている。

全ては主人公を狂気的なまでに愛しているから。

 

さてそれがどうして、ぽちっと押したらすぐに物を届けてくれて面白いコンテンツも安く観られるアマゾンと重なるのだろうか。

それはアマゾンが「全ては顧客の為に」という金科玉条によって、小売りに留まらず物流・金融・テクノロジーの分野に触手を広げ、市場を掌握し競合他社を淘汰することで、私たちの生活に喰い込みつつあるからだ。私はアマゾンで物を買わないよという人も、その通販サイトがアマゾンの販路を使用している会社の運営しているものであれば、その「アマゾン不関与主義」は成立しなくなる。私たちはアマゾンの恩恵を被らずに生活をすることは難しくなりつつあるのだ。

それは「主人公の為に」と家事をまめまめしくやり、ライバルをその卓越した戦闘能力で淘汰し(ディープなヤンデレ作品では、ヤンデレが主人公に近寄る女の子に怪我をさせたり、殺してしまうのはよくある展開である)主人公の生活の全てを掌握し、ついには彼女無しでは生きられないほど主人公を骨抜きにしてしまう、ヤンデレの姿と重なりはしないだろうか。

 

アマゾンの凄いところは、あくまでも小売りに足場を置きながら、物流や金融・テクノロジーといった急所を確実に押さえているところだろう。

例えば物流。アマゾンは自社で航空機を持っている上に、4000台ものトラクターを所有しているという。(日本のヤマトは大体3800台くらい所持してる)しかもそれだけじゃない。自社の膨大な販売データによって「顧客がそれを買う前にもう倉庫に運ぶ」ことさえやってのけているのだそうだ。

それってもう「買う」んじゃなくて「買わされてる」って感じがしないだろうか。真夏の夜にふとガリガリ君が食べたい……と思った瞬間、主人公の買い物のレシートを全て読み込んだヤンデレからガリガリ君コーラ味を差し出され「ソーダよりもこっちの気分……だよね?」と言われる感じ。ヤンデレに先読みされまくって自分の欲しいものが何なのか分からなくなる主人公の気持ちである。

 

まあ別に欲しいものが素早く出てくるのは悪い気はしない。

そう思ってガリガリ君コーラ味を齧っていると、ヤンデレはどんどん事を進めていってしまう。アマゾンがどんどんテクノロジーを進化させてゆくのと同じように。

アマゾンのテクノロジーの凄さはAmazon Goというレジのない店舗にも見られる。顧客は店舗で好きな物を手に取って持って帰るだけで良い。支払いはアマゾンのアカウントで後から行うからだ。それを行うためには、何を籠に入れたか判断する高性能なカメラや音声認識技術も必要になる。

これにより万引きによる利益のロスがなくなるとか、そういうメリットもあると言えばある。しかしアマゾンの目的は「テクノロジーによって新しい仕組みを作ること」の方が大きい。それだって全部「顧客のため」なのだ。

AIもドローンもアレクサも、顧客に使ってもらい、データを取り、また進化させたテクノロジーを発表し、顧客に資するようにするためのもの。そうして得た圧倒的な技術力、資金力でもって、アマゾンはまた別の市場を淘汰しに向かうのだ。

 

さぞやアマゾンは小売りで利益を上げているのだろうな、と思うだろう。私は思った。

けれど実はアマゾンの儲けはAWS-アマゾンウェブサービスと呼ばれるクラウドサービスからが大半であることを知っていただろうか?

2017年のアマゾン全体の営業利益は41億ドルほど。それに対してAWSの営業利益は43億ドル―あれ計算が合わない。そう、さぞやお儲かり遊ばしてるんでしょうねと考えるネット通販事業は30億ドルほどの赤字を叩き出しており、AWSはそれをカバーしているのである。

たぶんこれは業界の人にとっては常識なのだろうけれど、クラウドのクの字にも親しんでいない情弱の身にはとても驚きであった。でもアマゾンのクラウドってなんかジェネリッククラウドっていうか、安全性とかどうなの……?と思いきや、あのCISもIBMから乗り換えたほどなので、信頼性はお墨付きである。

 

何と言うか、今まで自分のことを好きだ好きだと言ってきたヤンデレの別の側面を見たような気持ちになる。自分の生活の土台を握られているぞっとしない気持ちと、でもこの便利さには抗えないという怠惰な気持ち―。

 

アマゾンは色んなサービスを立ち上げている。同じくらい撤退もしている。アマゾンがスマートフォン事業に参入していたなんて知らなかったし*3、参入した翌年に撤退しているなんて知らなかった。やってみて、ノウハウを得てから撤退するものもあれば、次の投資のヒントにすることもある。これらは全て膨大な資金力があるからできることなのだ。

赤字に耐えうるこの資金力によって、競合他社を淘汰し、市場を掌握してしまうのもまたアマゾンの特徴である。

アマゾンが生活に喰い込んでくる。それは別に悪いことではない。ただアマゾンが安く早く物を提供している背後には、沢山の倒産した会社があるということだけだ。

技術と資金の両方を兼ね備えたアマゾンは、これからも広がり続けるだろうと筆者の成毛眞は言う。その全貌を把握するために、今この本を書いたのだとも。さすがに知性ある方だけあって、版図を広げるアマゾンをローマ帝国に例えておられます。

 

私はアマゾンをヤンデレに例えた。けれどそれはアマゾンが怖いからというわけではない。

ヤンデレものにお詳しい諸兄諸君らはご存知だろうが―ヤンデレにはメリバものが多い。

メリバ- 物語のエンディング形式の一つで、登場人物の視点によってハッピーエンドであるかバッドエンドであるかの解釈が分かれるもののこと。例えば一部の登場人物にとっては幸福でも、その他の人物が不幸になっているまたはその逆がメリーバッドエンドである。

アマゾンの台頭は、他の競合他社にとっては確かにバッドエンドであろう。

しかしぽちっとボタンを押せばすぐに欲しいものを安く届けてくれること。自分のニーズにあったものを、明確に言語化しなくても差し出してくれるテクノロジーを生み出してくれること。安心・安全なネットワークを構築してくれること―。

それは私たち消費者=主人公にとっては、ハッピーエンドと言えることなのかもしれない。

 

なんて、もはや善悪を判断する段階にないのだろうけれど。 

 

*1:かわいい。ユーピテルの妻にして嫉妬深い婚姻の女神 ユーノーが名前の由来。尚、主人公は雪輝(ゆきてる)という

*2:ベッドの下から主人公を見守る系女子。「これより逃げた大嘘つきを退治します!」

*3:2014年